花の色と青い煙草

ダンス・ステップ・スラップスティック

秋飛ばし、

これはお盆のころの話。
夜の街を歩いていたらいつまでもいつまでも子猫がついてきて、もし猫を飼うとしたらこういう時だろうと旅先で思った。やがて横断歩道に着いてその子は渡れずに引き返していった。わたしがこの街に住んでいたら今頃はあの子を膝に抱えていたのだろうし、あるいはあの交差点を越えてまで着いてきたなら明日の朝帰ることを選んでいたのかもしれない。猫っていうのはマクガフィンかもしれない。猫でなければあるいは雨だったり、あるいはコインを投げてみてもいい。今のわたしなら両方表のコインを投げたい、持ってるコインは裏の気もする。いつかそうやってコインに委ねることをやめて、運命なんてクソ食らえだって笑いながらわたしが選んだ道を誇れたらいいと思う。
翌朝同じ道を歩くともうそこに猫はいなく、キャリーケースを引きずる音と走り去る電車の音、町を満たす暗騒音のなか駅へと歩いた。始まることもなく終わることもない。そういう不甲斐なさと向き合いながら、賽の目も見ずに猫と暮らす日に思いをはせていた。
でも猫っていいですね。あの夜に猫がついてきたことをしばらくは忘れられないままだし、これからも忘れる事はないと思う。
猫っていいですね。なにかが始まるような気がした。
 
これは夏が終わる前の話。
今年も九十九里浜にいって海遊び、をした。真夏のピークが去った海はすこし冷たくてそれでも楽しい。吹き荒む風の強さは濡れた体をすぐに乾かすからすこし身体が冷えすぎる。五感、だ。
その事を思い出しながら部屋で文章を綴る、どうも部屋で丸くなっていると昼か夜かも分からなくなる。いつでも映画が見たいからと買った遮光カーテンのおかげで部屋は暗く、それが自分の身体なのか、それとも自分が包まっている布団なのかも、抱きしめている身体なのかも分からない。
今日は独りで寝る。彼女がいない夜はすこしだけ寂しい。
真っ赤な嘘で頬を強く叩かれても覚める事のない夢を見ていた。
 
これも夏が終わる前の話。
真夏のピークが去ったときに花火大会に行ったわけでも会いたい人がいたわけでもないけど帰りの電車から眺める花火があまりにも悠然としていてどこか現実離れしていて自分のほほっぺたを確りとつねった。
ずっと友達でいれたらいいな、と思う人がいるけれどそういえば「友達のようにキスをする」ってどうすればいいのだろう?
ここにレンズで出来たびいどろ玉はないから、なおさら。
 
秋口です。
仕事終わりにいつもの道を駆け抜け、待ち合わせしたあの場所に車を停め、初めて会ったときのように旅先へと車を走らせる。
そして今わたしは温泉街でこの日記を書いている。数年ぶりの日記だけれど、多分次の日記も同じことを書いていると思う。
日々の小さな出来事なんて覚えていられないから、毎日きちんと綴らなきゃなと毎回言うのだけれど日記をつけられた事がない。
だからその事は置いておいてきょうのことを、と思う。
久しぶりに来た別荘は相変わらず埃っぽく、アレルギーの私はすぐに花粉症の如く。落ち着くころには帰らなきゃならないのがすこしだけ恨めしい。
ほんの少しの酒で酔った彼女は今隣の部屋で寝ている。期待したよりずっと静か、というのは親の心情の曲だったか。誰かがそばで寝ている夜は東京事変の夢のあとを思い浮かべる。


これも秋です。
 新宿のバス乗り場は誰かを迎えたり誰かを送ったりする場所だった。当時はバスタなんてなくって、ビルの隙間からのそりのそりと大きなバスが誰かを乗せて去っていった。

いまわたしはバスタにいる。あのころとちっとも変わらないピンク色のバスでこれから北陸へ向かう、友人に会うために。

ほどなくして着いたバスに乗り込む。

隣には今つきあっている恋人さんが座っている。こんな日が来るとは思わなかった、だいたいは見送るか、迎えるか。

誰かと一緒に押しかけて過ごすというのは不思議で仕方がない。

どうか楽しい旅になりますように。ほどなくしてわたしは眠った。

 

これは今日です。

職場から駅へ向かう道、川のほとり。

街路樹はピンク色のイルミネーションで飾られて冬を、というよりクリスマスシーズンの到来を報せている。

わたしはといえば仕事を終えて今日はなにをたべようかと迷っている。もうすっかり寒くなった気温についていけず、喉は荒れ鼻は詰まり気持ちもなんだか沈んでいる。

だからすこし嬉しいことを思い出そうとして結局三日坊主になった日記と、それから下書きのままのこの場所を掘り起こして清書を試みる。

猫の話、海の話。花火の話、温泉の話。それと、富山紀行。

この中でいちばん思い入れがあるのはもしかしたら猫なのかもしれない。猫は偉大だ。おずおずと近付いて、小さく鳴いた。それがなんだか嬉しくって、寂しくって。そうそう、さいきん電脳コイルというアニメを見た。子供の頃に見ていたアニメで、あの頃分からなかった話が今ならとてもよく分かる。とにかく見て欲しいのであらすじには触れないけれど、アニメの中で子犬に初めて触れるシーンをみて、ふと夏の猫を思い出した。あの頃は夏だったけれど今は冬、寒くないといいな、そう願ってる。

話は戻りますけれど今日のごはんはおうどんに決まりました。みなさま、よい夜を。